ポスト・ヒューマンの魔術師

「自称人間」の時代からポスト・ヒューマンの時代へ。

エピレプシー化した「自動人間」に寄せて

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概要

 既に何度も言及してきたように、ブレイン・マシン・インターフェイスは、脳神経システムと構造的にカップリングすることで機能する。侵襲式ならば、物理的空間上でインプラントすることで、カップリングすることになるだろう。非侵襲式の場合は、電磁波メディアとすることで、位相空間上でカップリングされることになる。この構造的カップリングは、脳神経システムの作動を技術的に「負担免除」することを可能にする。外部環境に位置する我々観察者には、兼ねて脳神経システムにオートメーション化された技術が参入するかのように観える。しかし、だからといって脳神経システムが非技術的と考えるのは、誤りである。脳神経システムは、技術的に作動している(!)このことを明確に指し示すヒントは、以下で説明するように、「側頭葉てんかん」にある。

「側頭葉てんかん」と「自動症」の歴史

 テムキンの調査[1]によれば、「てんかん(癲癇)」とは、「エピレプシー(epilepsy)」を意味する。この語は、「襲う(attack)」と「捕らえる(seize)」と同様に、「epilambanien」という語源を持っている。「てんかん」を初めて目撃した古代人は、そこに魔術的な束縛を見出したのであろう。患者はもはや、神聖な力に襲われ、捕らえられていると考えられていたのだ。

 哲学の方面では、ヒポクラテスが早くからこの魔術的な病を脱魔術化しようとしていた。「てんかん」を逸早く観察したヒポクラテスは、精神の中核が心臓にあると考えられていたその時代に、「てんかん」の病原が脳にあると見抜いていたのである[2]。そしてまた、ヒポクラテスは、この神聖なる病には医学的な兆候があることにも言及している。「さてこの神聖病と呼ばれる病気は、他の諸病と同様の原因、すなわち人体に入って来るものと人体から出て行くもの、および寒冷や太陽や常に変化してやむことのない風の変化によっておこるのである」[3]。

 とはいえ、ヒポクラテスの脱魔術化が直ぐに一般大衆へと受け入れられた訳ではなかった。「てんかん」を患う「エピレプシー」が、狂気と区別されるのは、近代まで待たなければならない。「てんかん」を患う「エピレプシー」は、社会システムの近代化を迎えてようやく脱魔術的に受け入れられるようになった。レンノックス[4]や秋元波留夫[5]らが断言しているように、「てんかん」を近代以降正確に定義したのは、ジョン・ヒューリングス・ジャクソンである。

 ジャクソンによれば、大脳灰白質の過剰発射こそが「てんかん」を引き起こすと言う。「中等運動中枢の突然で過多な発射、すなわち、突然で過多なエネルギーの放出は、続発的に活動した他の領域の疲弊を伴う巨大な活動を惹起します。『発射損傷』"discharging lesion"の細胞の消耗running down、すなわち、エネルギーの喪失のほかになお、続発性発射を惹起した領域の消耗、さらには原発性および続発性発射に関与した中枢の神経繊維の疲憊によるきわめて広範な陰性状態が起こります」[6]。

 しかし、ジャクソンも注意を促していたように、いわゆる「自動症」に関しては、大脳灰白質の過剰発射が直接的な原因とはならない。ジャクソンによれば、「自動症」の原因は、低次脳中枢の過剰活動状態にあると言う。大脳灰白質の過剰発射によって、低次脳中枢が高次脳中枢の制御から開放されることを契機としているのである[7]。秋元も述べているように、「この考えはやがてさらに発展して、精神自動症は神経系進化の最高次階層の上層の解体によって解放された下層の過活動であり、陽性症状であるとする見解に到達する。この場合の上層の解体に対応するのが意識喪失であり、陰性症状を構成する。すなわち、精神自動症は陰性症状と陽性症状からなる二重構造duplexを示す典型的な凶器の状態像である。精神自動症は最高階層上層からの制御を失った下層の自動的、ロボット的活動のあらわれである」[8]。

 ジャクソンは、哲学的な心身二元論から脱却することはできなかったが、学ぶべきところは大きい。この「てんかん」と「自動症」に関する考察は、今日の「側頭葉てんかん」に対する観察に大きな寄与を果たしている。とりわけ、進化における進歩を「最大の自動性から最小の自動性に向かうこと」と定義したことについては、興味深い。と言うのも、この定義によれば、脳システムの最高中枢が最小の自動性しか持たないという見解に辿り着くからだ。「そして、人は、身体的に見れば、自動機械automatonであり、彼の神経系の最高の部分(最高中枢)が最小の自動性であるということを意味するのです」[9]。

 かくして、近代以降の「てんかん」すなわち「エピレプシー」の病原は、大脳灰白質の一局所に発現する機能的異常であると考えられるようになった。そして「自動症」の原因は、高次脳中枢の解体によって引き起こされる低次脳中枢の過剰活動であると定義されることになった。これ以降、ペンフィールドは、てんかん性放電による電気刺激によって、灰白質の機能を部分的に阻害する研究調査を実施している。ペンフィールドの報告によれば、「側頭葉と前部前頭葉は心の働きと密接に関係しており、この部分に生じたてんかん性の放電は、過度の興奮を上部脳幹にある問題の灰白質まで伝えて、『小発作』の場合とほとんど変わらない自動症をひき起こすことがある」[10]。

 ペンフィールドによれば、「てんかん患者に見られるこうした自動症の発作は、人間の脳に複雑な仕事を自動的にやってのける一種のコンピュータ装置が内蔵されていることを、はっきり示している」[11]と言う。自動症の発作が発生した場合、患者の意識システムは作動を停止する。だが、生命システムや脳システムは作動を継続したままだ。それ故、患者は夢遊病の如く周囲を動き回る。そして、それまでに習熟していた慣習的な行動様式を繰り返していく。「自動人間と化した患者は前例のない決定はほとんど行なうことができない」[12]。したがって、自動症の患者は、クリエイティブな発想を持たないのである。

 とはいえ、「何かをしようと考えている最中に自動症の発作に見舞われると、自動人間と化した患者は、その計画を驚くほど細部にわたって実行するのである」[13]。こうした「自動人間」の特徴は、我々が常々言及してきた閾下の無意識の領域に位置する<自分>を想起させる。ジャクソンと彼に倣う秋元も述べていたように、自動症はしばしば客観的には異常とは認められないまま経過することもある[14]。こうした背景から、「自動人間は、脳のコンピュータに収められた生得の、また生後身につけた、反射と技能を利用しているだけなのである。もっとも、ときに二、三分の間意志の代りをつとめる計画を持つことはある。いずれにせよ、人間の脳に組み込まれた自動的な感覚-運動機構は、あらゆる生物コンピュータのなかで最も驚くべきものであろう」[15]。

「自動人間」が魅せたコンピューティング技術

 上記の観察を前提とするなら、脳神経システムは、自動的である。この意味で、ロボティックス的な技術と変わりは無い。これは、既に取り上げた「ユーザー・イリュージョン」としての自我意識とも相性の良い見識だ。意識システムの<私>にとって、無意識的に作動する脳神経システムの<自分>は、無論自動的であろう。

 以上の考察を背景とするならば、ブレイン・マシン・インターフェイスは、ポスト・ヒューマンとしての「デザイン」に相応しい技術となる。それは単なる哲学上の戯言のみならず、人間科学的な知見に基づく。しかしこれについては、次節で取り上げることにしたい。

注釈

[1]  オゥセイ・テムキン(著)、和田富治(訳)『てんかんの歴史1 古代から十八世紀まで』、『てんかんの歴史2 19世紀とジャクソン』中央洋書出版部(1989)を参照。

[2]  ヒポクラテス(著)小川政恭(訳)『古い医術について』岩波書店(1996)、p44を参照。

[3]  同上、p57を参照。

[4]   Lennox WG(1960) Plate 1 transfiguration by Raphael. Epilepsy and Related Disorders, vol 1, vol 2, Little Brown and Company, Boston/Toronto, pp713-719.

[5]  秋元波留夫(著)、上田敏(著)『精神を病むということ』医学書院(1990)、pp211-214を参照。

[6]  ジョン・ヒューリングス・ジャクソン(著)、秋元波留夫(訳編)『ジャクソン 神経系の進化と解体』創造出版(2000)、p28を参照。

[7]  同上、p117を参照。

[8]  同上。

[9]  ジョン・ヒューリングス・ジャクソン(著)、秋元波留夫(訳編)『ジャクソン 神経系の進化と解体』創造出版(2000)、p43を参照。尚、ジャクソンの定義によれば、「最も組織化された」という表現と「最も自動的な」という表現は、共に「最も完全に反射的」という表現に対応している。詳細は、pp44-45を参照。

 またジャクソンによれば、「神経構造の活動に意識の伴うことが少なければ少ないほど、それらはより多く組織化され、より自動的であり、そうなります。このことは最高、より少なく組織化され、より少なく自動的、最も不完全に反射的な中枢が意識、とくに最も鮮明な意識の身体的基盤であることを意味します」(同上、p53)。

[10]  ワイルダー・ペンフィールド(著)、塚田裕三(訳)、山河宏(訳)『脳と心の正体』法政大学出版局(1987)、p81を参照。

[11]  同上。

[12]  同上。

[13]  同上、p91を参照。

[14]  ジョン・ヒューリングス・ジャクソン(著)、秋元波留夫(訳編)『ジャクソン 神経系の進化と解体』創造出版(2000)、p53を参照。

[15]  ワイルダー・ペンフィールド(著)、塚田裕三(訳)、山河宏(訳)『脳と心の正体』法政大学出版局(1987)、p94を参照。

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