故にルーマンは、従来の書物における記述形式を棄却した。これについては、ルーマンを正統に継承するボルツが、的確に次のような分析を展開している。
「複雑で、高度に相互依存的な理論は、再帰的かつ異種間統合的に構成され、もはや系列化できないようになっている。このような理論では、複数のアプローチ・ポイントにおいて同時に反省が行われる。そして反省のアプローチはすべて、その場その場で説明されうる以上のことを前提にする。これはもはや線的には掲示できない。だからこそルーマンは先取りと遡及によって操作を行う。ルーマンの非線的理論構成が理想とするのは、一冊の本のひとつひとつの章が他の章に再び立ち現れるような構成である。しかしながら書物においてはそういうわけにはゆかないので、叙述の形式は理論の形式と矛盾する。残された手としては、読む行為において本を書き換えるよう読者にアピールするしかない。というのも、そうする以外に、一目で把握できない複雑な内容を示す方法がないからだ」[1]。
だからルーマンの理論と書物の性質を理解している者は、一つの書物に没入しない。複数人で集まり一つの書物を<輪読>している似非システム理論家たちは、文字通りミスリードしているのである。
こうした記述形式に挑戦したのは、ルーマンだけではない。典型的なのが、ドゥルーズとガタリの『千のプラトー』[2]やダグラス・ホフスタッターの『不思議の環』[3]である。これらの書物は、どの章からも読み始めることができる。だが、そのメヴィウスのリングを想起させる非線的な記述形式は、終わりを指し示さない。こうした章立ては、集中力を持たない読者たちを、退屈にさせる。「グーテンベルク銀河系」の「文字」が既に死滅している以上、複雑な現象を活字の「文字」で記述することには限界が伴う。もし複雑な現象を「文字」で記述しようとすれば、「言葉が死んでいる」、「単子の自閉症」、「ロビンソン的な孤立」と言った具合に、複雑性に苛立つ読者たちから非難を浴びる訳だ。
かくして、彼らの挑戦は、失敗に終わった。「グーテンベルク銀河系」を土台とした「文字」が、致命的な制約となったからだ。よって、「ここからが本題である。複雑なものが言語において同時現前する問題である。理論形式という地平では、さまざまな研究の試みをいかに統合するか、という問題が焦点となり、叙述形式の地平では、線的にも循環的にもすすめられない論証、まさに<不思議の環>として手続きを踏む論証の方法をいかにテクスト化するか、という問題である」[4]。
つまり「間テクスト性」が可能とするのは、あるウェブページで生じたパラドクスを別のウェブページを指し示すことにより隠蔽する脱パラドクス化なのだ。あるウェブページの記述者は、不可避的にパラドクスに直面する。だから記述者は、アンカーリンクを貼るのである。別のウェブページを発見することで、記述者は既存のウェブページに伴ったパラドクスを隠蔽するという訳だ。
これは何も記述者に限ったことではない。閲覧者もまた、アンカーリンクを辿ることで、パラドクスの隠蔽と発見を連続させる。単一のウェブページを観察しているだけでは、そのウェブページの真偽や出典などの根拠を問わなければならない。だが既に述べたように、根拠の追求はパラドクスを招く。だから閲覧者は、そのウェブページに貼られているアンカーリンク先のウェブページを発見することで、この無限後退的なパラドクスを隠蔽するのである。
<グーテンベルク銀河系>の活字出版では、こうした取り組みは無理難題であった。「なぜなら、書物という形式においては、ひとつのテクストを、選びとられた読み方に応じて多様にアレンジすることなどできないからだ」[7]。図書館のユーザーが一つの書物のパラドクスを隠蔽するためには、別の書物を参照しなければならない。これを繰り返していけば、やがてその図書館が用意した全ての書物でパラドクスを発見することになるだろう。だとすれば、ユーザーは別の図書館を参照しなければならない。だがこの取り組みを実施するとなると、今度は時・空間的なコストが伴う。しかしハイパーテクストにおいては、参照にも発信にもさしてコストは掛からない。こうした背景から、ハイパーテクストは、書物を上回る。
[2] ジル・ドゥルーズ (著)、フェリックス・ガタリ (著)、宇野邦一 (訳)、田中敏彦 (訳)、小沢秋広 (訳)『千のプラトー―資本主義と分裂症』河出書房新社 (1994)を参照。
[3] ダグラス・R. ホフスタッター (著)、野崎昭弘 他 (訳)『ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版』白揚社 (2005)を参照。
[4] ノルベルト・ボルツ(著)、識名章喜(訳)、足立典子(訳)『グーテンベルク銀河系の終焉 -新しいコミュニケーションのすがた』法政大学出版局(1999)、p223を参照。
[5] 同上、p220を参照。
[6] 同上、p215を参照。
[7] 同上、p223を参照。