ボルタとガルバニの有名な論争の果てに、異なる二つの金属同士の接触によって、電流が構成されることが知られるようになった。電流が発見されてからは、脳や生体に対する電気刺激が研究対象として注目を集めるようになる。とりわけホセ・デルガドをはじめとして、ルドルフ・ヘスやアカートたちは、視床や大脳脚、大脳周辺系など、様々な部位に電気刺激を与える実験を実施している。その結果、脳に対する電気刺激によって攻撃的な衝動や睡眠作用などを引き起こすことが可能であると知られるようになった[1]。
しかし、これらの実験では、脳に電極を差し込まなければならない。そして、電極には長いワイヤーが接続されている。このワイヤーからは、電気刺激を操作するための機械に繋がるリード線が延びている。したがって、実験動物がワイヤーを切断しないためにも、その行動の自由を大幅に奪う必要があった。これでは実験動物の生の行動から分析することが不可能となるため、ワイヤレスな装置による遠隔的な電気刺激の方法が模索されることになる。この関連から、ロジャー・ルークスは、二つのコイルの誘電現象を利用した電気刺激の方法を案出した[2]。しかしながら、二つのコイルの距離に、方法論的な陥穽があった。誘電現象を引き起こす一次的コイルと脳内に差し込まれた二次的コイルとの距離が不確定であればあるほど、二次的コイルで発電される電圧が不安定となってしまう。ルークスの提案でも、実験動物の行動の自由をやはり制約してしまうのであった。
[2] 電流が生じているコイルから構成された電場の範囲に、別のコイルを設置した場合、そのコイルにも電流を生じさせることが可能になる。このことを誘電現象と呼ぶ。予め電流が流れているコイルを一次的コイルと呼び、電流が誘導される側のコイルを二次的コイルと呼ぶ。ルークスの方法によれば、この二次的コイルを脳内に差し込むことで、一時的コイルから誘電現象を引き起こし、結果電気刺激を可能にするというものであった。これに基づく研究の詳細については、次の文献を参照。
Loucks RB(1934) A technique for faradic stimulation of tissues beneath the integument in the absence of conductors penetrating the skin. J. comp. Psychol. 16: pp439-444.